居るのはつらいよ 東畑開人 書評 いる する

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「いる」のがつらいから「する」私たち|おすすめ本紹介『居るのはつらいよ』東畑開人

 何もせずただ「いる」というのが仕事

私たちは、ただ単に「いる」ということが苦手ではないでしょうか?

例えば、閑散期だからといって職場で何もせずただ座って「いる」だけの人は、いないと思います。何もしないでいたら、「なんか仕事をしろ!」と怒られていしまいます。怒られないために私たちはたとえ暇であったとしても何か「する」ことを探します。

そんな「する」が常識の社会で、「いる」をめぐる物語を著したのが東畑開人さんの『居るのがつらいよ』(医学書院)という本です。

東畑さんは、京都大学大学院の博士課程を修了後、沖縄のとあるデイケア施設に就職。この本は、そこでの日常の様子をノンフィクションとエッセイと小説のちょうど間のような筆致で描いています。

医学書院という硬派な学術書感ただよう版元名であったり、「ケアとセラピーについての覚書」という副題からは、一瞬コムズかしさを感じてしまいますが、心配はおよびません。むしろ読みやすく、コミカルな表現もてつだってかサクサク読み進められてしまいます。例えば、冒頭のこんな文章。就職活動中の著者は、院生中にはすでに結婚し子どもがいたので、家族が養えるだけの給料がもらえる臨床心理士の求人を探していました。

 明けて二○一○年の正月、凍てつく京都の夜更け。僕は相変わらず「開け!臨床心理士求人!常勤!ボーナス!」とグーグルに向かって叫んでいた。すると、突如神が啓示を下した。

《精神科クリニック 常勤臨床心理士募集 条件:月給二五万円(資格手当込み)。賞与六か月(ただし条件によって変動)》とノートパソコンに映し出されたのだ。

 月給二五万円。賞与六か月。

 なんだそれは。聞いたことのない好待遇ではないか。このクリニック、庭から石油でも湧いているのではあるまいか?

そんなこんなで、精神疾患を持つ人たちがリハビリのために通うデイケア施設に就職します。意気込んで初出勤を迎えますが、彼に与えられた初めての仕事は「とりあえず座っている」ことでした。こんな仕事あるかよ!という感じですが、一応業務命令なのでメンバーさん(本書では患者を「メンバー」と呼ぶ)が集うデイケア室で「とりあえず座っている」ことにチャレンジしてみます。

すると、著者はこんな光景を目にします。デイケアではほとんどのメンバーさんが何をするわけでもなく、ただただぼーっと座っていたのです。そこに就職するまで「誰も彼もがセカセカと何かをしている世界にいた」著者は、目の前の何の動きもない静止画のような様子に驚きました。

デイケアの1日をみてみると、大半が自由時間なのでした。何かを「する」のではなく、上記のようにただ「いる」時間。そう、デイケアはただ「いる」ということを守る場所なのでした。

なぜデイケアでは「いる」を守るのでしょうか?それは、逆を言えばメンバーさんたちは、私たちが生きる社会に「いる」のが難しい人たちだったからです。その時になってようやく、著者は上司から指示された「とりあえず座っている」という業務命令の意味を理解します。

 彼ら(メンバーさんたち)は社会に「いる」のが難しい人たちなのだ。だから、僕の仕事は「いる」のが難しい人たちと、一緒に「いる」ことだった。

 「いる」ができない統合失調症のジュンコさん

とはいえ、それまで「する」の世界にいた著者や新入りのメンバーさんは、デイケアのような「いる」の世界に簡単に慣れることはできません。何もせずただ「いる」ということに居心地の悪さを感じてしまい、「する」ことを探してしまうのです。

例えばある日、統合失調症のジュンコさんというメンバーが新しく入所してきます。ジュンコさんは、「とりあえず座っていてください」というオリエンテーションを受けたものの、2秒と座ってはいられずすぐさま「する」ことを探し始めました。ここでのリハビリを終え、早く社会復帰をしたいと思っていたからです。

ジュンコさんは当番制の仕事に自ら立候補したり、メンバーさんやスタッフにも積極的に話しかけました。そして、ジュンコさんは著者にも話しかけてくるようになります。

「ねえ、東畑先生って、カウンセリングの先生なんでしょ?すごいね。どこの高校行ってたの?私はほとんど高校行かずにやめてるよー。それでね、聞いてほしい話があるんだけど、いま時間ある?」

 時間は死ぬほどあったのだが、「OK!ちょうど暇してたんですよ!」と言ってしまうとシロアリを自認するようなものなので、「ああ、そうですね……そうだなあ……どうだったっけなあ……ああ、今日の午後とかなら時間ありますよ?」と頭の中にカレンダーを思い浮かべるフリをして(真っ白だけど)、もったいぶって答えた。

著者は、そのとき気分が高まっていました。せっかく博士号まで取ったのだから、ただ「いる」という誰でもできるような仕事(*)ではなく、カウンセリングという自分の専門スキルを生かしたかったのです。ジュンコさんからの相談依頼で、その時がいよいよやってきたのでした。
(*)読み進めていくと、誰でもできる仕事にこそ著者は意味を見出していきます。

WRITER

nakamura

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